「彰く〜ん」
「ハーイ・・・やべぇ浩二、また7時50分きっかりに来た」
トーストは食べかけ、
つぶしかけたイチゴミルクをゴクリ、
ランドセルを右肘にぶらさげ、
『待たせてゴメンネ』って顔で玄関を出るのが
毎朝の僕の習慣だった
わけのわからない朝礼と授業が終わると
昼休み
「われ〜わしが戸川の万吉じゃ〜! お〜九州の池田やないけ応援きてくれたんか
よっしゃーこれでわいらの子分はしめて三万人むこうは四万人 勝負じゃ〜」
この「男一匹ガキ大将」ごっこは
日本東西を分けたガキンコのケンカあそび
ほとんど親分役しかおもしろくなく、ケンカも本気が出ない程度に
体のでかいやつが「仲間に入れろ」といってきたときにゃそく解散
・・・お!鉄棒あたりじゃ東岩がなんかやってるぜ
「ピッピッピー」
さあ笹谷滑走に入った 飛んだ決まった1m20p 鉄棒の上に足ひろげガニマタでジャンプ
当時笹谷は僕らのヒーローだった
指を広げ両手を前に出すスタイルがなんともいえない
選手によっては後にうでを組むやつもいるんだ
しかしこの遊び、飛距離はほとんど変わんない
今の飛行姿勢が何点だとか言ってるうちに休み終了のチャイムがなり出した
「先生さよーなら、みなさんさよーなら」
胸騒ぎの放課後
池田とアッカンベー、バカヤローと、口げんかをしてわかれる
昨晩親から買ってもらったローラースケート
これをだいて道路に出る
おっと僕のスティックを忘れちゃいけない、
当時大流行のローラーホッケーは
スケートとケンカのミックスされたダイナミックな遊び
「東岩 おまえ図体でかいからゴールキーパー」
「よーいスタート」
はじまったはいいが
僕のスティックはパックにふれようともしない
それもそのはず
スティックはおやじの釣り竿でほそくて重い
それがどうだ浩二のは
手づくりの本物まがいのスティック
あそび道具をいかに工夫してつくるか―これが僕たちの遊びで生き残れる条件だった
ホッケーで口を切って休んでいると、陽も落ちかけうすぐらくなってきた
しかしこのうすぐらさの中での「あっかん探偵」という遊びがたまらなくおもしろい
2つのグループに分かれ泥棒と探偵を決め
探偵が泥棒を全部捕まえたらおわりというのだが
そのエリアは1丁目22番地をほとんど自由にして行われる
つまりその空間ならどこでもいいという素朴なルール
塀をつたい、屋根を駆け抜け、植木に潜り込む、
うまく敵陣地に入り、仲間で捕まっている泥棒にタッチしたら
5,6人がまた22番地にちらばるという過酷なルールでもある
「あー星が見え出した、今日は早く帰って寝よう。何しろ明日日曜日は朝の四時起きだ」
家から15分ぐらいしたところに、野球グランド場がある
日曜日の競争率はものすごく
当番の日になると
明け方星の見えるころ
おふくろのにぎってくれたおにぎりとグローブを自転車にくくりつけでかける
グランドに近い東岩は毎週着くとそこで先陣の場所取りをしてくれている
「早くみんなこねーかな」
朝日のさしかかるグランドは神秘性がある
「おはよー朝早くから頑張るね」
毎週かならず早朝マラソンのおじさんが声をかけてくる
「とにかく早くこないかーみんな」
ホームベースを枕に少しうとうとしはじめた。
忘れられない3つの思いが僕の胸の中にある
1つはこうして工夫に工夫して遊んできたこと
かなりマンガTVの影響はあったが
それなりのヒーローになるのに必死だった
特に運動オンチの僕には僕なりの舞台が必要だった
むかしの人はもっと自然とぶつかって遊んだのかなあ
今の子はTVゲームから何を創り出してるんだろう、それは僕にはわからない
2つめはこうした楽しい遊びの中でもいじめる、いじめられるの過酷なかんもんがいくつもひっつきまわってたこと
「おまえがいるならこの場所つかわせねー」
「○○君がいいっていうなら入っていいよ」
それこそ必死だった
3つめは、これはかなり衝撃的だった
僕らのつくっていた野球チーム、それは完全に草野球チームだった
そこに「先生」という大人が介入してきて少年野球チームをつくるので選抜テストをやりはじめた
僕はそれからもれてしまった(かなり運動オンチだったのね)少年野球チームは区内準優勝
ピッチャー浩二 サード池田
残された僕らは下手者同士ででチームをつくろうとしたが・・即解散
日曜の朝グランドを四時に向かう僕の習慣は消えた
大人の介入それは目の見えるところで
すばらしいものをつくる、でも目の見えないところでとってもさみしいものつくる・・・ときがあるんじゃないのかな
夏休み陽のガンガン照りつける朝
23才のギャングエイジたちが集まって僕の家の物置の屋根上でカナヅチをたたきはじめる
裕子がこわれかけたみかんばこを選んでる
千里は「それくさってるわよ」と一言
「おーい座いすがすててあったぞ」
浩二がさけんだ
「こわれてるんじゃないそれ」
「バカ修理すればつかえるよ」
こわれたみかん箱をつなぎあわせつくっているのは全長3mの飛行機だ。
彰「とぶかなぁ」
池田「とぶはずねーよ」
浩二「でもとぶかもしれないよ」
千里「最初にだれがのるの」
東岩「俺こわいからいやだよ」
まったく飛ぶはずでもない飛行機の横で完成が近づくにつれこうした会話があふれ出す
23才のギャングエイジたちの頭の中には
かすかにこの飛行機が3M・4M飛ぶ光景がうかんでいる
時を忘れた者達の奏でる
カナヅチのたたく音とのこぎりの音
それらは交互に1丁目22番地に響き続けた
僕のくらし、今のくらしの中にいつのまにか工夫と夢が忘れさられてる
僕は今できあがった空間に行き、無理のない程度にはしゃいでる
僕らの作った空間で「とぶかな」「とばないかな」ドキドキした時をすごしたい
23才のギャングエイジたち・・・
それは決して夢じゃない