障害児者余暇支援を考える    〜横浜市社協の事業事例から〜


はじめに


学校卒業後の若者が,休日の昼間や平日の夜間に思いっきり羽をのばしている時間,

障害のある若者が自分の部屋に閉じこもって過ごす。こういったケースが多いのはなぜだろうか。

「休日の過ごし方が分からない」「外出して何かするのに支援者が必要だが見つからない」といった理由が多数である。

障害者地域活動ホーム

障害児のための『訓練室』障害者の『作業室』地域の人との『交流室』機能を持った建物。横浜市単独事業として昭和55年からスタート。平成10年で23館、現在機能強化されている。



こういった状況に対して,横浜では障害者地域活動ホームがホ
ーム利用者を対象に

『青年生活学級』,養護教育センターが卒業後の生徒を対象に『青
年学級』,障害者施設が利用者を対象に『余暇クラブ』を実施している。

これらの実施主体に共通していえることは適切な指導者(教諭・職員)がいること,

安心して会える仲間(利用者・卒業生)がいることで,障害者の余暇充実を図っている。


障害者青年学級

1990年頃から社会福祉協議会(以下社協)でも,この「障害者青年学級」が事業としてスタートした。

区社協、市社協運営の地域ケアプラザで幅広い公募から集まる障害者,地域というネットワークで

若者を中心に集まったボランティアが繰り広げる社協の青年学級は,

専門家が少ないため幾分不安定感または危険性を持ちながらも,

障害者からは「今まで知らなかった人と友達になれた」「今まで経験のなかったことをしてみて初めて楽しいと思えた」という声があり、

またボランティアからは「障害のある人と普通に付き合う感覚をつかめた」「してあげるというより,一緒になにかするという活動がおもしろい」という声も上がった。

この事業はできるだけ福祉の専門家が関わらず,普段の若者の生活感覚で活動プログラムを進めていくことを大切にしてきた。

しかし,いざという時に『専門家の助言がもらえる』『障害者個人の状況を知るネットワークがある』ということが必要になる。

つまり社協が地域資源(ボランティア・余暇施設)や福祉専門機関との連携を日頃どれくらいとっているかが大事になってくると言える。

いくつかの区社協、地域ケアプラザで展開してきた青年学級も、

区社協の法人化、事務局拡大により各区で展開が広がった。

また、地域ケアプラザでも市社協が運営受託を増やしていく中、

地域交流事業の一環として各プラザで青年学級が行われるようになった。

地域ケアプラザの場合、『土日も施設が開放されている』という中でかなり臨機応変な、ゆとりがあるプログラムができた。

(例えば外出予定のプログラムが雨が降ってもプラザ室内で別メニューをすぐ組み立てられるなど)

また、あるプラザの例をあげると、「○○川のいかだ下り大会に参加しよう」ということから店員が応援にかかわってもらうことになった。

いかだ下りの企画の後もその材木店店員の野球チームが「今度試合をしてみないか」と声をかけられ、

月1回のペースで草野球プログラムが始まったという。

このように『地域の様々な分野の人が関わる』

『近隣という継続性のある人間関係を持てる』という特色を生かした中で、

個性的な青年学級が繰り広げられ評価されている。




サロン事業

「あの場所に行くとあの人がいる」「いつでも気軽に立ち寄れる」といったサロン的活動も数多く行っている。

ある区社協では障害者とボランティアが中心になって区民利用施設でのコーヒーサービスを週1回行っている。

この事業の特徴は,区民利用施設に来る人が多く出入りし,

その中で障害を持つ人と自然に会話をしたり,声を掛けられるというまさしく地域(人)との交流がなされている点である。

また,今まで『ボランティアをしてもらう側』ばかりだった障害者の中には

ふれあいショップとは

ふれあいショップとは、横浜市が障害のある人の就労の場を確保し、地域との交流ならびに市民に障害についての理解を深めるために、飲食物の提供、障害者地域作業所自主製品の販売などを行なっています。
ふれあいショップは、現在横浜市に12ヶ所あり、およそ50人の障害のある人達が働いています。

コーヒーサービスという『ボランティアをする側』に立つという存在感に喜びを感じる人もいる。

こういった多くの人と交わりのある活動が,区民利用施設が設計される段階で提案されていくよう,

行政・住民に働きかけていくことが大切である。

市民利用施設に売店等を置かなかった横浜市も、ある老人福祉センターには市民からの要望に応え設置した。

その運営の委託を区社協が受け、障害者団体に日常的な運営を任せている。

この事業は「普段アルバイトをする機会の少ない障害のある高校生等に店員として働く経験を持たせたい」という親の要望からスタートした。

就労支援という場で横浜市が進めてきた「ふれあいショップ事業」もいくつかの区社協が委託を受けるようになった。

収益を求め、就労支援に結びつけるといった点でサロン事業とは趣旨は違うが、

障害者と地域の人が交流できるという点では大きな意義を持っている。


ホームフレンド事業

夏休みになると社協に一番多かった依頼が障害児保育である。

夏休み等の長期学校休暇の間は障害児地域訓練会も休みとなり,

親にとっては1ヶ月半を子どもとのみで生活していくのは肉体的、精神的にも疲労であった。

障害児地域訓練会

自宅近くで幼児は保育,学齢期は絵画,体操,水泳などの活動をボランティアの支援を得ながら行っている。当事者の運動で昭和48年より横浜市単独事業として予算化され、平成10年には64団体活動している。



健常児であれば「○○君の家に遊びに行く」「○○ちゃんと泊まりに行く」等といったことも障害児にとっては難しい状況である。

「何とかボランティアさえ探せれば」と対処療法的に行ってきた社協
の対応であったが,

1998年の夏,横浜障害児を守る連絡協議会と社協が協力して1区10ケース程度をモデルに,

障害児1人にボランティア2人が付き添いで外出するという事業を組織的かつ計画的に行った。

長い休みに親子が離れ,親は親だけの時間,子どもは子どもだけの時間を持つことに充分意義はある。

しかし実施してみると,親とボランティアの意識のずれ等の問題点もわかり,

まさに早い年齢から(親も子も)ボランティアとのつきあい方を学ぶ場の必要性も感じさせる事業であった。

このモデルケースを皮切りに各区社協でもホームフレンド事業が進められた。

市社協ではこの事業の成果をきっかけとし、学齢障害児サポート検討委員会を平成14年度(2002年)にたちあげた。

この委員会では夏休みだけではなく、学齢期を支える『場と人のシステム』のあり方について

2005年に報告書を出した。同年6月にシンポジウムを開催し、

社協がシステムづくりへ積極的に取り組んでいくことの必要性を提案している。

ここで学齢障害児サポート委員会実施中に行った市社協の調査を引用して14年度現在の区社協取り組み状況を紹介したい。ここをクリック



障害児者スキルアップセミナー

余暇支援としての、グループ形式,サロン形式、個別対応形式を展開していく中で

つきあたった壁は障害者の余暇に対する主体性である。

与えられた余暇を受けていくだけでなく、

どう自分の欲しい余暇を回りの人に伝えていくか,作っていくかという経験、訓練が今までの生活環境上どうしても不足している。

ある区社協では長期的ビジョンにたち、コミュニケーション,自立生活,パソコンインターネットという3つのセミナーを1999年にスタートした。

障害者自身が余暇を伝えていく,作っていくという練習を楽しく息長く続けていこうとする事業である。

コミュニケーションセミナーは相手に自分の思いを伝える、相手の気持ちを理解するという

基礎的、実践的訓練を中心に進められた。

自立生活セミナーはまさに自己決定を中心に組み立てられたセミナーである

セミナーのの一環では「外出プログラムを自分自身で作る」といったメニューがあったが、

どこに頼むのか、何を頼むのかという点で未経験の受講生は多かった。

一方でセミナースタッフは「できるだけ本人にやらせる」といった趣旨にかかわらず、

「どこまで任せられるか?」という苦悩を経験した。失敗は経験となり、本人の次回へのステップになる。

しかし、失敗が取り返しのつかないものであったらどうするのか。

セミナーである以上は主催者も失敗をどこまで許せるかという議論が重ねられた事業である。

パソコンセミナーはインターネットを知るということで過去の経験で自分の知らなかった情報を得ることができ、

新しいことを取り組む主体性に大きくマッチした。

また、Eメールではボランティアとのコミュニケーションもひろがり、ホームページづくりまでにも発展している。


社協がかかわる重要性

 今まで述べてきたような余暇支援に関わる活動事例に、社協がかかわる重要性は次の3点にあると思う。

1. 開発・開拓的事業

障害の専門性のある機関・学校・施設は、その時間帯、受け入れられる期間が限られている。

また、受け入れる視点も、療育・教育・生活指導に片寄らざるをえない。

幼児期、学齢期、成人期を地域、くらしという視点で受け入れることができるのが社協の特性といえるだろう。

くらし全体の中から不充分な支援を障害児者本人・家族と一緒に地域の人と考え、

それを事業として展開し、サービスに結びつける可能性を持っている。外出支援サービスもその一環の成果といえるだろう。

2. 協働的事業

国際障害者年の2年目から横浜市では『横浜ふれあい障害児者キャンプ』事業をスタートし、

社協は障害児者に大きくかかわりを持ち始めた。

「障害児者はこの2泊3日だけで生活を満足しているのか?」から始まった青年学級事業。

「障害児者と地域との交流はどこにあるのか?」から始まったサロン事業。

「学齢期からの第三者との余暇体験が青年期の大きな成長に結びつくのでは?」から始まったホームフレンド事業。
「余暇への主体性は経験だけでなく、セミナーのような研修が必要なのではないか?」から始まった障害児者スキ
ルアップセミナー。

社協は問題を抱える本人、家族、地域と一緒に試行錯誤しながらも事業を進めるノウハウと経験を積み重ねてきた。

また、NPO、企業との連携もあることから、今後は事業を無償のボランティアの協力にたよるだけでなく、

必要なサービスを内容によっては有償(選んで買う余暇)に切り替え、実施主体を広げていく可能性も持っている。

3. 拠点事業

『学齢障害児サポート検討委員会報告書』では、「地域の中に、学校と家庭の間に、常設のフリースペース的な心
理的な身近さがあり、ほっとできる場があるといい。

その場には、すぐに遠慮なく使えるサービスがあり、相談に乗ってくれる雰囲気(人)がある、

暮らしの支えになる、いろんな使い勝手を工夫できるそんな場所(拠点)を具体化していきたい」と提案している。

青年学級を開始した当初、地域ケアプラザはその拠点を生かし、

そこにたまり場的性格を持つことが可能であったが、区社協は区役所の中に事務局を持ち、

会議も区役所の会議室や区民利用施設で行ってた。

しかし、1998年に福祉保健活動拠点の運営委託を受けてからは、

そういった拠点を生かした『たまり場づくり』の可能性を持つことができた。

 しかし、ここで提案している『ほっとできる場所』『相談に乗ってくれる雰囲気(人)』とは社協の従来持っている性格でありながらも、
『具体的にどう行われているのか』『職員の力量に頼ることなく組織的に実践されているのか』を今一度検証していかなくてはいけないテーマである。


今後の展開

障害児者の余暇支援は今後当然社協だけでなく、

多くの障害児者機関・施設、NPO団体、企業が展開していくだろう。

しかし、『どこにどんなニーズがあり、どこにどんな余暇支援のメニューがあるか』については、

総合的に地域福祉事業を進めてきている社協のアンテナが大きな力を発揮していくにちがいない。

2000年に区域レベルである区社協と市民団体で障害者の生活情報のホームページを立ち上げている。

地域性を重視し、障害者とボランティアが町歩きをし、

障害者の使いやすい店、施設等をサイトにアップするというマップづくりを中心にすすめている。

また、市域レベルでは市社協とNPOが2003年に市の補助金を受け、

『障害福祉情報システムよこはまナビゲート』をスタートした。

障害者が「くらし」「しごと」「あそび」という生活一般の情報を手に入れて、自分らしい生活を送れるようにサイトを建設している。

社協が単に障害児者の余暇メニューを増やしてもそこに限界があるのは当然である。

「車いすでも行きやすいレストランがある」「障害児者を受け入れてくれるスイミングクラブがある」

「視覚障害者に音声訳をいれてくれる映画館がある」等そういった社会資源を結びつける効果を考えて行かなくて
はいけない。

また、情報を集めていくということはそれだけ障害児者がどんなニーズを必要としているか知ることでもあり、

サービスを提供している団体との繋がりをもつことでもある。

こうした情報発信・情報収集をもとに社協の障害児者に対する開発・開拓・協働・拠点事業がさらなる広がりを持つことに期待するものである。




参考文献

1)知的障害援助専門員養成通信テキスト 2000年10月7日
「知的障害者の余暇・文化活動」第2章第3節余暇、文化活動のための社会資源   
財団法人 日本知的障害者福祉協会
2)「自由な時間」〜休みの日にはハートフルクラブで〜   
障害者の余暇活動調査研究委員会報告書 1996年 3月   (財)横浜市在宅障害者援護協会
3)ひとりひとりの夏休みーともだちと一緒っていいなー  
障害児ホームフレンド報告書 1999年 2月    横浜障害児を守る連絡協議会  
4)いつか手をはなす日のために   学齢障害児サポート検討委員会報告書 2003年5月   
社会福祉法人 横浜市社会福祉協議会


参考HP

あおばバリアフリーサロン
http://www.abs21.com/index.html

障害福祉情報システムよこはまナビゲート
http://www.yokonavi.jp/